ガバナンスとコンプライアンス

このブログではガバナンスとコンプライアンスを一緒のカテゴリーで扱っていますが、これには違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。kuniは長年にわたりコンプライアンス業務に携わってきて、ガバナンスを論じる業務へとキャリアを移してきました。そのため、あらためてコンプライアンスとガバナンスの違いを意識することなく、お付き合いしてしまっているんだと思います。

そこでこの投稿では、コンプライアンスとガバナンスの違いについて、あくまで個人的な見解を書いてみます。

コンプライアンスとは

コンプライアンスについては「法令遵守」と訳されており、ある程度市民権を得てきたように思います。最近では、法令遵守に社内ルールを含めたり、倫理の世界も含めて、企業倫理とも訳されるようになってきました。時代の要請といいますか、行政の要請という面も大きかったと思います。

つまり、コンプライアンス=「法令や規則・ルールに加え、明文化されていない倫理観までを含めて、違反行為を発生させないための取り組み」という感じでしょうか。そしてこのコンプライアンスというのは会社であったり、取締役、中間管理職から従業員にいたるまで、全員が取り組むべきものです。コンプライアンスに取り組むことで、会社や役職員を守ることができるわけです。

ガバナンスとは

一方でガバナンスはちょっと厄介です。このブログもそうですが、ガバナンスという言葉はコーポレート・ガバナンスの略称で使っています。日本語では「企業統治」と訳されますが、コンプライアンスほどに市民権を得ていません。

それもそのはずで、ガバナンスは一般の従業員にとっては縁がなく、一義的には経営者に対して求められる機能であり、取り組みであると考えています。なもんですから多くの従業員にはあまり理解させる必要もなかったということでしょう。これが一つ目の相違点。

そして二つ目に、ガバナンスのほうがより広範な概念であり、従業員や会社、顧客、社会、株主の利益を守るための取り組みであるということです。また、コンプライアンスが護りの色合いが強いのに対し、ガバナンスには会社の利益を最大化していくという経営判断(攻めのガバナンス)までも含んでいます。

まとめ

とまぁ、ここまで説明してきましたが、文章にするのはやっぱり難しいですね。

コンプライアンスはすべての役職員に法令や(明文化されていないものも含めた)ルールを遵守させる取り組みであり、従業員や会社、顧客を護るための取り組みである。

ガバナンスは従業員、会社、顧客、社会、株主など、すべてのステークホルダーの利益を守ることを目的とし、経営者が組織や人を適切に機能させるための取り組みであり、従業員や会社、顧客を護るコンプライアンスはその一部である。

こんな感じでしょうか。こうして整理してみると、「社会と株主の利益」がポイントかもしれませんね。kuniとしては役職員全員にルールとその遵守を促してきたんですが、(本質的には)同じことを経営者に対して促す立場になったというだけで、違和感なくきてるんですよね、今のところ。

 

 

10年周期 金融危機

リーマンショックから10年が経過

このところやたらとリーマンショックの話題を見かけます。あれから10年ということで、振り返りの記事が多いですね。ちなみに、リーマンショックというのは日本特有のネーミングらしいです。海外ではサブプライム・ショックと呼ぶのが普通だそうで、その結果としてリーマンが潰れたと。

10年というのがキリがいいからというだけではなく、この30年ほど、10年周期で金融危機が発生しているから、という背景もあるようです。このことは前回の投稿にも書きました。10年に意味があるとは思えないんですが、概ね10年ごとに起きてるんですね。

米国の政策金利との関係

この10年金融危機説、米国の政策金利との関係で語られることが多いようです。米国の金利が引き上げられ、何度か引き上げが続き、それが終わって1~2年あとに金融危機が発生しています。

景気の過熱を恐れて政策金利を引き上げます。一気に上げると影響が大き過ぎるので、一年に2回とか3回とかのペースで上げていくんですね。これをだいたい2年とか3年とか継続します。そうすることで好景気を長く継続させたいという思いと、景気が悪化し始めた場合の政策金利の下げ余地を確保するという狙いもあります。

金融危機が発生すると、先ほどの逆で、政策金利は何度も引き下げられ、次第に収束、景気も持ち直し、株価も上昇に転じていく。これを繰り返してきてるんですね。

金融危機のメカニズム

バブルという言葉は、平成以降に社会人になった人たちにはピンとこないようで、この投稿では金融危機という言葉を使ってます。念のため。投資資金は常に効率の良い投資先を探し、さまよっているのですが、金融経済は実体経済の50倍に達しており、既に投資先が枯渇しているわけです。

米国の金利がどんどん下がっていくため、米国内で行き場を失ったお金は国外に投資先を探し、アジアや新興国にも流出していきました。アジアや新興国は低い金利で資金が調達できるわけで、この間経済は拡大します。米国を例に書いてますが、同じことは日本や欧州でも起きています。メガバンクは国際金融の比率を大幅に上昇させましたし、トルコリラの急落場面では、イタリアやフランスの金融機関がトルコに大量に貸し込んでいるという話題もありました。

こんな状況で米国の金利が上昇に転じたのです。すると、これまでのお金の流れが逆流し始めます。アジアや新興国の通貨が売られドルを買って自国に戻っていきます。通貨安によってアジアや新興国の借金は膨れ上がります。このときに新興国の経済が立ち行かなくなり、失速し、資金を融通してきた金融機関の資産が毀損します。

今最も心配されている次の金融危機のシナリオはこんなところでしょうか。ただ、どんな風に危機が訪れるのか、それは誰にも分かりません。しかし、ここに書いた大きなお金の流れとその逆流の構図は頭の隅に置いておいた方がいいと思います。

割安株相場

割安株相場の到来か 10年越しの転換 カギは金利

21日の日経平均株価は6日続伸し、この間の上昇幅は1265円に達した。けん引役は銀行や素材といったPBR(株価純資産倍率)が低い割安株だ。本格的な割安株相場では市場全体に幅広く資金が行き渡り、上場企業全体の株価の底上げにつながる。これまで買われても一時的だった割安株だが「今回は違うかもしれない」との見方が浮上している。

9/22 日本経済新聞 スクランブルの記事です。このところスルガ銀行に始まり、銀行株やその他業種のPBR(株価純資産倍率)を調べていて、少し感じるところがありました。kuniの場合は金融の出身ということもあり、どうしても金融株に目がいってしまうのですが、確かにこのところ動きが変わってきていたのです。

記事では「世界では10年ごとに物色の矛先が交代してきた」、「成長株と割安株の優劣が10年ごとに交代。09年末から始まった成長株相場はそろそろ転換点を迎えるとみる。」といった見方が紹介されています。

一方で、長期にわたって上昇する相場の末期に大型株(ここで言う低PBR株にほぼ一致します)が大きく上げるというパターンもよくあります。今回はどちらでしょう。

10年に一度バブルがはじけて暴落

皆さんも聞いたことがあるかもしれません。世界的な金融危機は約10年サイクルで起きてるんですね。1987年10月の「ブラックマンデー」、1997年7月の「アジア通貨危機」、2007年8月に「サブプライムショック」。

10年丁度に何の意味もありませんが、10年程度で投資先を探してさまよう金融資産が行き場(投資先)をなくしてしまう。っていう程度の意味だと思ってください。ここから始まる割安株相場は、この10年間の総仕上げ、最後の局面になるのかもしれません。

もちろん、割安株への投資でバブルがはじけるのではなく、それは米中貿易戦争であったり、新興国の破綻であったり、欧州の銀行の破綻であったりと、別のトリガーで始まるんだと思いますけどね。で、例えばチャイナ・ショックとかのネーミングで呼ばれる暴落が起き、後講釈として「やっぱり将来が見通せない銀行株まであんなに上がったってのは、もう他に買うものなかったんだよね」、「暴落の前兆だったね」みたいな説明がされるわけです。

果たして中長期に続く割安株相場なのか、これが最後の上昇局面になるのか。まだ分かりませんが、スタンスとしては後者を想定して臨むべきでしょう。いずれにせよ、大型株の新たな動きに関しては要注目です。

スルガ銀行 株主 創業家株式売却

スルガ銀行 創業家株売却へ

9/21 日本経済新聞記事です。創業家が関連企業などを通じて保有するスルガ銀行株を売却する意向とのこと。企業文化・ガバナンス改革委員会に対し、このことや同行からの借り入れを返済する用意があることを伝えてきたようです。

昨日の日経記事、金融庁は一喜一憂でしょうね。スルガ銀行は今後の焦点と見られていた創業家に新しい動きが出て、やっと道筋が見えてきたと思いきや、仮装通貨67億円が流出。これでまたいろいろと批判にさらされるんでしょう。流出の事実の公表の仕方などちょっと気になるところもあります。ただ、このお話は別の投稿で。

創業家関連企業の持ち株は発行済み株式の15%超

この15%の株はどこに行くんでしょうかね。創業家の手を放れることで、新しい経営陣が、機能不全だったガバナンスを立て直し、健全な地域金融機関として再建さしていく。とまぁ、メディアが描いてきた勧善懲悪の構図がこれで完成しそうなもんですが、そう簡単には行きません。

金融庁検査の対応、訴訟の嵐、まともにやったんじゃ、そもそも生き残れそうにない銀行の事業環境。加えて、ここから参入してくるであろう、この会社の解散価値に着目した物言う株主たち。

BPS 1,400円 PBR 0.4倍

昨日このニュースを受けて株価は620円のストップ高。創業家が手を引き、創業家に対する怪しい融資に関してもクリアになるということで、株価は一気に反応しました。ここで市場が注目したのが、以前紹介した一株あたり純資産(BPS)、すなわちこの銀行の解散価値です。

その他の銀行株も金利の上昇気配を材料に、3日間上昇していたことも手伝ってのストップ高。早くも目標株価を1,400円とか言ってる人もいますね。ここで注意しておくべきことをいくつか上げておきましょう。

まず、一株あたり純資産の1400円について。過剰な融資から発生する貸し倒れでどれぐらい損失を計上するか。これにより純資産は減少します。また、ほとんどの融資がでたらめだった訳ですから、今後の訴訟等で賠償金額が膨らみ、これも純資産を減少させます。一方で株主代表訴訟では経営陣の責任を問い、賠償金は会社に入りますので、こちらは純資産を増加させる作用があります。

次に、PBRの0.4倍について。別の投稿でも取り上げましたが、もともと地銀株のPBRは0.4倍を下回っていたわけですから、他行との比較ではそれほど上げ余地はないということです(ただし、銀行株全体が上げ始めてますから、地銀株PBRも上昇傾向にありますが)。こんな風に考えていくと、このあと大きく上げるとは思えないわけですね。

最低限これくらいのことを頭に入れて、値動きを見ていきましょう。ただ、一般投資家が手を出す銘柄ではないですからね。最後に、この株、信用取引の空売りの買戻しという特殊要因があります。上げるときの勢いは凄いはずです。実はこれが一番の材料でして、完全に理屈抜き。マネーゲーム化すると思いますので、、、あくまで傍観で。

福山通運、日曜の配達停止

9/21 日本経済新聞 「福山通運は10月から順次、日曜日の企業向け荷物の配達を取りやめる。トラック運転手が休みやすい環境をつくり、人手確保につなげる。総務省も郵便物の配達を平日のみとする検討に入るなど、働き方改革の動きが広がってきた。人手不足は業種を超えて深刻さを増しており、同様の動きが他の業界にも広がる可能性がある。」(記事より引用)

働かせ方改革、顧客第一主義の修正という文脈で

記事では働き方改革の動きとして捉えてますが、顧客第一主義の見直し(または従業員第一主義)という文脈で書いてほしかったですね。当ブログではこの視点で何度か問題を指摘してきました。

日本には本来必要なかった「顧客第一主義」の推進により、何より従業員が追い込まれ、悲惨な状況に陥ってきていること。もっと従業員を幸せにしてやらないと、顧客への高いサービス提供を維持することが困難なこと。それでも顧客第一を掲げたいなら、会社としてこれ以上は従業員に求めない、ということを顧客に対してしっかり伝えていくこと。

まさに福山通運のこの判断は、従業員を顧客から守る政策なんだと思います。

有効求人倍率は7月に2.86倍

厚生労働省によると、トラック運転手を含む「自動車運転の職業」の有効求人倍率は7月に2.86倍で、職種全体の1.47倍を大きく上回っているらしいです。この事実から何を読み取るべきか。

顧客対応をしてもらう従業員を採用する、もしくは配置する場合、その従業員に顧客対応させて大丈夫か、当社の信用を傷つけてしまうような不適切な応対をしないだろうか。企業は必ずそこを考えるはずです。求人倍率が全体の2倍になっているという現場では、採用や配置に際して、人の見極めが甘くなっていくのはやむをえません。この時点で既に、顧客へのサービスの品質は劣化し始めているのではないでしょうか。

そんなことになるくらいなら、企業としてサービスの範囲を限定することで、従業員に求める顧客第一の範囲を明確にしてあげる。これが第一歩だと思います。

今回の福山通運や郵便局のこうした動き、まだまだ影響範囲は限定的ですが、このような対応を見せる企業には、必ず質の高い労働力が向かうはずです。また、これをきっかけにして、業界としてさらに踏み込んだ対応に展開していけるのではないでしょうか。

企業経営に携わるみなさん、従業員をもっと大切にしてやってください。