以前の記事で森長官時代の金融庁の失策として、「仮想通貨」と「スルガ銀行」を指摘したことがあります。実はもう一つあるんですね。いやいや、細かいことを言うとまだまだたくさんあるんですが。代表的なものでは、という意味であと一つ。
毎月分配型投信
毎月分配型投信というのは、投資信託の分配頻度で分類したもので、名前の通り毎月1回分配金が顧客に支払われるタイプの投資信託です。ちょっとややこしいかもしれませんが、何に着目して分類するかによって、さまざまなカテゴリーが出来てしまいます。投資対象によって分類すると、株式投信、公社債投信、不動産投信などに分類されますし、世界のどの地域に投資するかで分類すると、米国株投信、国内株投信、新興国株投信といった具合です。
要するに毎月分配がある投信と言っているだけなので、その中には、何に投資するのか、どの地域に投資するのかなど、様々な投信が含まれています。この中に「通貨選択型投信」と呼ばれる非常に複雑な仕組みの商品があり、一時強烈に残高が増加しました(もの凄い勢いで販売されたと言うことです)。正直言うと、販売する側の証券会社や銀行の営業員もしっかり理解できているとは言えない商品でした。が、販売時の手数料が3.5%ももらえるということで、顧客ニーズと言うよりは販売する側に大きなニーズがあったわけです。
金融庁はこの通貨選択型投信を攻撃し始めます。とうてい顧客が理解しているとは思えない、顧客に大きなリスクを負わせることで、高額な手数料を生み出す商品。とまぁ、こんな感じで批判し、結果的には商品の販売を止めさせたわけです(実際には販売に際しての説明責任を強化することで販売しにくくしたんですね)。ここまでは、kuniも賛同しました。
調子に乗って、次は毎月分配型投信全体に対して攻撃を拡大します。投資元本が生み出す収益は、再投資されることで投資効果が最大化されるという、複利効果を強調する指導です。この一般論で毎月分配型投信全体を止めさせようとしたわけです。
顧客のニーズはどこに
投資元本を切り崩して分配金に当てていることを、顧客が理解しないまま、利回りの高さに魅力を感じて買い付けているケースはもちろん大問題です。販売する各社はそういう販売が行われていないか相当チェックしていました。しかし、このことを十分理解したうえで、年金みたいなものとして歓迎する向きも実は多かったのです。つまり、収入がなく年金に頼らざるを得ない高齢者です。
当時kuniはコンプライアンスを指導する立場にいたわけですが、「顧客がこのことを理解したうえでニーズがあるなら、どんどん販売して良い」と言ってました。「なんなら、より具体的に年金が支給されない月にだけ分配金を払い出す商品作ればどうよ」とまで。それでも、金融庁の度重なる指導の前に各社とも販売を自粛していったのです。
その後、金融ジェロントロジーや人生100年時代に合わせた資産寿命の長期化などが語られるようになり、高齢者にとって年金と同一の効果を持つ毎月分配型投信等が復活してきているようです。10/13日本経済新聞 「シニアを意識 分配型投信隔月主流、適度に元本取り崩し」という記事読んでみてください。わが国における顧客ニーズに基づいた高齢者向けの投資信託の進化。少なくとも5年は金融庁が遅らせた格好です。
おまけですが、地銀なんかこの商品本気で取り上げたらどうですか?顧客は高齢者がメインなんだし、支給される年金額やら口座のお金の出入りまで見えてるんだから。分配金で年金を補完するきめ細やかなサービスできるんじゃないでしょうか?