油圧機器メーカーKYBでも検査データの改ざんが行われていたようです。旧会社名はカヤバ工業。kuniはこの社名の方が染み着いていて、KYBという社名見ただけではピンときませんでした。日本一のダンパー(ショックアブソーバーとも言います)のメーカーです。
ダンパー(ショックアブソーバー)とは
ちなみに、自動車の場合で説明すると、路面からタイヤ、車体に伝わる衝撃を吸収するためにバネが延び縮みするんですが、それだけではバネがずーっと伸び縮みを繰り返してしまいます。その繰り返しを収束(減衰)させるための装置がダンパーです。この機能を建物の揺れを減衰させるために使ったものが、今回話題になっている免震・制振オイルダンパーということですね。
当初はこの製品の検査員は1人だけしかいなかったということで、特定の担当者への過剰負担が不正行為の常態化に繋がったのではないかと言われていました。しかし、商品の安全性に対し、普通の配慮がなされていれば、1人体制だとか1人の責任なんて不自然な気がします。
実際ある報道によると、元従業員と責任者とのやりとりの録音が入手されていて、組織ぐるみでのデータ改竄と隠蔽があったのではないかとも言われているようです。真相はまだまだ見えてきていませんが、普通に考えて一個人の行為とは思えません。
データの改ざんが行われた15年間には東洋ゴムの不正事件も
2015年には東洋ゴムが「免震ゴム」、「防振ゴム」と立て続けにデータ改ざんを行っていたことが明るみになり、これらに対して行われた社内調査の杜撰さも併せて、社会の批判を浴びました。
この時、KYBのデータ改ざんを行っていた当事者たちはどう感じたんでしょうね。真実を告げると先輩たちを売ることになるという思いで、不正行為は引き継がれていったのではないかと思います。不正のトライアングル※1で言うところの「正当化」ですね。
それでも、この時ばかりは「自社においてもこういうことが起きていないか調査して見つけてほしい」、「この機会に自社も真実を公表してほしい」。そう考えたんじゃないでしょうか。不正を働いた者は、その行為を継続するうちに自身の行為を正当化し始めます。「納期を守るためにはしょうがない」とか「こういう行為を正そうとしない会社が悪いんだ」といった具合です。
これはkuniが見てきた経験ですが、行為者たちは早く発見してほしいと願うようにもなります。自分自身は不正を正すことができない、しかしやってはならないことを続けている。その葛藤の中で他の力に頼り始めるんですね。こんな心理状態で相当疲弊していくんです。
残念ながら、東洋ゴムの不正が批判を浴びたこの場面では、KYBの不正が表面化することはありませんでした。ガバナンスの観点では「他社で発生した事例については、自社の事業についても必ず点検を行う」のが基本動作ですが、このとき経営は動かなかったようです。
今回のデータ改ざんの事実がどのようにして発見されたのか。これについてもまだ明らかにされていません。当事者によるのか、別の従業員によるのか。内部通報なのか、外部機関やメディアへの通報なのか。同じくガバナンスの観点では、発見統制がどう機能したのかというところですね。
※1 不正のトライアングルとは
不正行為は、①機会、②動機、③正当化という不正リスクの3要素がすべてそろった時に発生すると言われていて、これを不正のトライアングルと呼んでいます。