デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーが行った調査によると、上場企業の9割以上が内部通報制度を設けているにもかかわらず、半数以上の企業で内部通報の平均利用件数が年0~5回にとどまっていた、という統計もあるらしいです。日立御三家と呼ばれるような会社でも不正が長年にわたり行われていたわけですが、やはり同社でも内部通報制度は機能していませんでした。
日立化成の内部通報制度
その全く機能していなかった内部通報制度について、報告書ではインタビューへの回答として次のようなものを載せています。「匿名性の担保に不安があり、通報した場合に不利益を被らないか不安だった」、「内部通報はハラスメント等のためのものだと思っていた」。
報告書のまとめとして、「制度内容についての周知が十分でなかったこともあり、その運用において、現場の従業員から内部通報制度に対する十分な信頼を得ることができず、その結果、各不適切行為が内部通報により経営陣にエスカレーションされることはなく、是正につなげられることもなかった」と書いています。教科書のような指摘ですね。
内部通報制度の運用の改善
こうした実態に対する制度の改善提案の内容はかなり平凡な内容でした。「制度に対する社長のコミットメントを前面に打ち出し、現場の従業員の内部通報制度に対する信頼度を向上させるための施策を継続的に講じるべきである」。
一方で、制度の改善とは別の切り口で、特別調査委員会が実施したアンケート調査を推奨しています。実はこれが新しい試みというか、kuniにとっては斬新でした。全文引用します。
「内部通報を待つだけでなく、当委員会が行ったアンケート調査のように、会社から積極的に問いを発して従業員が答えやすい状況を作ったり、現場の悩みや課題を聞き出したりすることから始め、丁寧に是正につなげていくことで、経営陣の取り組みに対する従業員の信頼度を向上させていくことも一案である」
内部通報制度を周知するなどのプロセスの重要性
ここからはkuniの意見ですが、制度の内容を周知するとか、経営の本気度をアピールすることなど、メッセージを発信し続けること自体にも大きな意味があると思います。みなさんがちょっと不適切な行為をまさにやろうとしている、という状況だったら、こうしたメッセージを見たり聞いたりするとどう感じるでしょう。
自分の周りに自分の不適切な行為を経営にエスカレーションしてしまいそうな人が、どんどん増えていくような感覚にはならないでしょうか。つまり、こういう制度があるんだよというメッセージが繰り返し流されるだけでも、一定の牽制効果、相互監視の緊張感が生まれるということです。そこら中に監視カメラが付いている場所では犯罪が起きにくいのと一緒ですね。